2017年5月27日(土) 11:33 JST

文創りのエチュード第1話 『水色式部日記』/村瀬朋子さん作 和綴じの本×フィクション

  • 2010年10月28日(木) 08:45 JST
  • 投稿者:
  • 表示回数 1,252

『水色式部日記』   ―――   村瀬朋子

 

  

 

時は平安時代 ── ここ京の都は、天皇を中心とした貴族社会だ。

 私、水色式部のお仕えしている毬(まり)姫様は、今年で15歳、結婚適齢期まっ只中。
高貴なお方には、私の様な女房(にょうぼう)と呼ばれる教育係が、何人も就いている。
身の回りの世話をしたり、教養を身に付けてもらう為、精を出している。

 そして、私の最大のお役目は、身分の高い素敵な殿方の下(もと)に姫様を嫁がせ、
お世継ぎを生んでもらう事。こう書くと、毬姫様の意志を全く無視している様だが、
それはある意味、お家繁栄の為の〝宿命〟であると思う。
  しかし、当の姫様は結婚には全く無関心だ。
黒髪の美しい毬姫様の噂を聞きつけ、気合の入った恋の和歌を添えたラブレターが、
あちらこちらから届くのに、一向にお返事を書こうとなさらない。
「お気に召されませんか?」と尋ねると「何かピンと来ないのです」の一点張りだ。
  困ったものだと頭を抱えていると、また新たに、姫様に文(ふみ)を送ってくる殿方が現われた。
  それが、かなりヘンテコな文(ふみ)なのだ。いきなり『和歌を詠むのが得意ではないので、
私は絵を送ります』とあり、ご自分で描かれたリアルなカエルの絵をよこしたのだ。
殿方曰く、カエルは幸福のシンボルなのだそうな。
それを見た姫様は、くすくすと笑っていた。
  早速どちらの殿方か調べると、今や飛ぶ鳥を落す勢いの、藤原家のご子息だった。
17歳で、頼嗣(よりつぐ)様とおっしゃる。身分は高く申し分ないのだが、無類の生き物好きらしい。
何時間でも観察をされ、お付きの者が困っている位だ。
  和歌や楽器は苦手らしいが、生き物や植物に関して知識が豊富で、それを絵にする
のがお好きな様だ。頼嗣様の絵付きの文は続いた。
  うぐいす、唐猫、鮎、どれも繊細なタッチで、生き生きと描かれていた。中でも圧
巻だったのが、伝説の生き物で3本の足を持つ、八咫烏(やたがらす)だ。3本足のカラスが、
和紙から飛び出してきそうな、迫力のある絵だった。
  八咫烏とは、日本神話の中で、道に迷った神武天皇の道案内を果たした、と言われる。
その絵の隅に『あなたの一生の道案内をさせて下さい』と書かれていた。
平成を保とうとしている毬姫様の頬が、一瞬ピンク色に変わった。
そして私に「お返事の歌を書くので、紙と筆をお願いします」とおっしゃった。 
  姫様のピンと来る人に、やっと巡り会えたのだ! 頼嗣様を変わり者と呼ぶ人は多いが、
生き物好きに悪い人はいないはず──

この日記を付けながら、私も再び嬉しさが込み上げてくる。
日記帳の表紙に描かれた朱色の花達が、カラカラと揺れ頬笑んでいるかの様だ。
あぁ、これから忙しくなりそうだわ。


= = = = =

『文創りのエチュード』に関連する記事:

[⇒]和紙と文章とのコラボ企画、『文創りのエチュード』は毎日1話ずつの更新です。
[⇒]『文創りのエチュード』の取り組み、続いて日刊工業新聞・大阪版に掲載。
[⇒]『文創りのエチュード』の取り組みが産経新聞大阪版に掲載中。
[⇒]『文創りのエチュード』、それは和紙製品と文章との知的なコラボレーション。

= = = = =

◆こちらの作品へのご意見・ご感想は下の『コメント投稿』ボタンより登録できます。

◆和紙や小間紙に関するお問合せ、マスコミ取材のご依頼などは
【和紙商小野商店のお問合せフォーム】からお願い致します。

『企業ブランディングを和紙で彩る』
【和紙商小野商店のトップページ】に戻ります。

トラックバック

このエントリのトラックバックURL:
http://www.onopapers.com/trackback.php/20101027172341675

文創りのエチュード第1話 『水色式部日記』/村瀬朋子さん作 和綴じの本×フィクション | 0 コメント | アカウントの登録

以下のコメントは、その投稿者が所有するものでサイト管理者はコメントに関する責任を負いません。


カテゴリー

新着情報
小野商店ブログ
ニュースレター
製作実例
メディアギャラリー
個人情報について
サイトマップ

和紙・小間紙の活用事例

各種和紙を使って手製本で丁寧に作製した和綴じのノート
アルバムを見る

営業日とお知らせ

サイトカレンダーをスキップ

«
2017年 05月
»
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

ユーザー機能

ログイン